医学論文解説 〜Toshi's Lab ジャーナルクラブ報告

第6回「細胞の多分化能を維持する因子Nanogの機能解析」

Nat Cell Biol. 200810 (2):194-201 Nanog maintains pluripotency of mouse embryonic stem cells by inhibiting NF-κB and cooperating with Stat3 Torres J, Watt FM.

生物の多くは雄、雌それぞれ由来の生殖細胞が受精し新しい個体をつくる。新しく作られた受精卵は1つの細胞からなり、この細胞が分裂を繰り返し複雑な生物の体を作り出す。初期の分裂で増殖した細胞はすべての組織、器官を形成しうる全能性分化能を有する。
さらに分裂が進むと、一部の種類の細胞になることができないがほとんどの体細胞、生殖細胞になりうる多分化能を持つ内部細胞塊を形成する。この内部細胞塊から胚性幹細胞 (ES 細胞) は作られ、遺伝子改変動物の作製や発生メカニズムの解析に用いられている。
そこからさらに発生が進むと細胞は完全に運命が決定され、特異的な機能を示す分化した状態になり生物の形態を形成する。細胞は特異的な機能を持つ上体に分化してしまうと、他の組織の細胞にかわったり、運命が決められていない未分化な細胞に戻ることはできない。

近年再生医療への応用性から細胞の多分化能制御機構の解析が広く行われている。発生初期の多分化能をもつ細胞に発現する遺伝子が明らかにされ、細胞の分化状態、細胞の種類を特定するマーカーとして用いられている。最近これらの遺伝子の初期発生における機能が報告されつつある。
今回の論文ではマーカー遺伝子の1 つである転写因子 Nanog のシグナルについて解析している。ES 細胞内における Nanog 結合因子の探索により、今までに炎症や細胞増殖に関与することが知られている転写因子 NF-κB が得られた。Nanog は NF-κB と結合しNF-κB 依存的な転写活性化を抑制した。ES 細胞で NF-κB の発現を高くすると細胞は分化が促進され、NF-κB のシグナルを抑制すると細胞は未分化な状態が保たれた。以前よりLIF は以前からマウスの ES 細胞の分化を抑制し未分化を維持することが知られ、マウス ES 細胞の培養でも実際に用いられている。Nanog はその LIF シグナルの下流にあり遺伝子の発現を調節する転写因子 Stat3 と協調的に作用し、その標的遺伝子の発現を上昇させた。
これらのデータは Nanog は発生初期の未分化な細胞において Stat3と細胞増殖に関与する遺伝子の転写を活性化するとともに、NF-κB による遺伝子発現を抑制するという複数のメカニズムを介して細胞の多分化能の維持を調節しているということが示唆された。

上記の結果はヒトの多分化能を持つ細胞分化させて用いて新しく臓器の一部を作りだす再生医療に有用な知見を与えてくれるものである。

(文責 Jopanda Satokotian Bach)

要約:Toshi's Lab ジャーナルクラブ 荒谷

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