リウマチの研究はいまどこまで進んでいるのでしょうか。

リウマチ研究の第一人者である聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター、センター長西岡久寿樹教授に話を伺いました。


難病治療研究センター長
西岡久寿樹

日本リウマチ学会指導医
日本リウマチ学会副理事長
厚生省リウマチ対策審議会委員
(財)痛風研究会理事
(財)日本リウマチ財団常務理事
米国リウマチ学会国際委員
アジア大平洋リウマチ学会連盟会長
国際リウマチ学会(ILAR)理事




■リウマチの研究はいまどういう課題を抱えているのでしょうか?

いま、リウマチには2つのキーワードが存在しています。

まず、「運動が出来ることによる価値観・世の中に対する見方の変化」です。例えば、寝たきりの人を車イスに乗せる。つぎの段階として、車イスから歩けるようにする。そうすると、彼らが見る世界はまったく変わってくるわけです。車イスから立ち上がった人がいたら、「世の中ってこんなんだったのか!」と言うわけですよ。

もうひとつのキーワードは「痛み」です。「痛みからの解放」ですね。要するに痛みがあるから動けない、動けないから痛みが増長する。21世紀において、痛みの科学は各分野で発達すると思いますよ。わかっているようでわかっていないですから。

例えば、自分の腕をギュッとつねってみると痛いですよね?でも手を離すともう痛くありません。なぜ痛くないんでしょうか?そのメカニズムはまったくわかっていないのです。つねったとき、痛みのシグナルが頭に入ります。つぎに、その痛みを抑える冷却の仕組みが頭の中で作動するわけです。こうした概略はわかっているのですが、なにがその冷却を司っているのかまったくわかっていない。

世の中には、痛みのブレーキが効かない病気があります。要するに痛みっぱなし。「線維筋痛症」というとてつもない病気なんですが、従来の炎症による痛みと違い、寝ているだけでも自分の体重で痛みを感じることもある難病です。爪を切るだけでも痛かったり、髪の毛を切るのも痛かったりするわけです。

こうした場合、痛みのブレーキを効かせてやれば、痛みが取れるわけですが、痛みが完全に無くなると我々は生きていけないわけです。例えば糖尿病の患者さんは痛みが無くなってしまうから、ストーブに当たって大やけどしてしまいます。だから、痛みは我々の体にとって大事なんです。

痛みというのはもっとも原始的な反応なのですが、その仕組みは解明されていないわけです。例えばリウマチを患うと痛いということは想像できると思います。そして、炎症が鎮まると痛みは無くなることも想像がつきます。でも「なぜ痛みが無くなるんですか?」という質問に対する回答は、わからないのです。21世紀は、痛みを抑える「鎮痛」よりもうひとつ高次元にあたる「痛みの制御」に関するサイエンスの時代だと思います。



■ということは、リウマチについて完治の可能性はすでに見えているわけですか?

もう見えていますね。なにを創薬のターゲットにすればいいのかわかってきています。

つまり、サイトカイン(※1)の解明の次はアポトーシス(※2)の制御なわけです。そうすると、抗Fas抗体(※3)と中島教授が発見したシノビオリン(※4)としかないわけですよ。

抗Fas抗体に関してはアポトーシスの誘導、つまり悪いものは殺すという治療戦略です。しかし、シノビオリンに関しては逆の可能性もあるのです。つまり、本来アポトーシスに陥ってはいけないのにそうなってしまった組織を保護する働きもあると考えられます。これは研究者の性格によるのかもしれませんが、僕が「攻めの一手」であるのに対し、中島教授は守ることについてのバランス感覚があるわけです。だから、シノビオリンには2つのミッションがあると言えるわけです。悪いものは殺し、弱者は保護するというわけです。

シノビオリンの価値は、いまの時代背景を反映していると思います。例えば、現実の社会を見たとき、富める者はますます富み二極構造が促進されている問題があります。しかし、シノビオリンはある特定の階層ばかりに攻め込むだけでなく、ひとつのセーフティネットのようにアポトーシスを予防しながら、関節リウマチを抱えているひとたちを救済していくわけです。そこがシノビオリンのものすごく大きなミッションであり、中島がボクを超えた理由もそこにあると思います。彼のシノビオリンのコンセプトに関しては脱帽です。だから、あれだけ大きなサイエンスとしての発展があるわけじゃないですか。

でも、最初は訳のわからない羽の動かなくなったショウジョウバエや動けなくなったネズミとかボクの部屋に持ってくるわけですよ。「なにをつくってるんだよ」と思って。まるで子供みたいでしたよ(笑)



■リウマチの患者さんは、今後、いまの悩みは解決されると期待して良いということでしょうか?

あと10年以内で終わりでしょうね。もうリウマチは難病ではないと言えるステージまで来ていると思います。例えば痛風は生活習慣病でもなんでもないわけです。昔は薬もなんにもなくて患者さんは足を腫らせて「痛い、痛い」と言っていたわけですが、アロプリノールという薬ができた時点で先が見えたわけです。ボクはそれまで痛風の研究をしていたのですが、それが出た時点でリウマチに切り替えました。

製品化まではわかりませんが、2010年にはリウマチに関するほとんど薬のラインナップが揃うと思います。先ほども話したとおり悪玉は殺すとしても、軟骨細胞など必要な細胞まで殺してしまっては困るわけです。そうしたものをアポトーシスから守る。そうした選択的なアポトーシスの制御ができあがったとき、リウマチの治療というのは完全に終わりです。

第1世代の1950年代は痛み止め・鎮痛剤の時代だったわけです。70年代になって第2世代となり、リウマチのある部分を治療する薬が開発されるようになりました。2005年、第3世代のサイトカイン制御の研究が進みました。そして2010年に第4世代として、アージェンスの開発している抗Fas抗体に対する薬剤と、ロコモジェンが開発しているシノビオリンについての薬剤が出ればそれで終わりですよ。双六でいえばアガリです。これらのものは治験の段階が現在進行中ですから、2010年からの10年でリウマチは完全に普通の病気になると思います。

まさにベンチャー発の二つの薬剤がリウマチを制するわけです。最後の〆の段階ですね。


※1サイトカイン
さまざまな組織の細胞から分泌され、近隣の細胞へ働きかけ、増殖や分化、細胞死、免疫などの機能の調節を行うタンパク質の総称。特に、細胞死を誘導する細胞死誘導サイトカイン(デス因子)は、ガンや関節リウマチをはじめとするさまざまな病気に関与しており、注目されている。

※2アポトーシス
高等生物が発生や個体維持のために細胞を積極的に死なせるプロセスで、プログラム細胞死とも言われる。核内のDNAが損傷を受けたときや、サイトカインにより誘導されるとき、細胞内小器官である小胞体にストレスがかかったときなどに誘導される。ガン等の増殖性疾患においては、アポトーシス機能に異常をきたしていることが知られている。

※3抗Fas抗体
細胞表面上のFas(APO-1抗原、受容体の一種)と結合することで、その細胞内にシグナルを送りアポトーシスを誘導する。関節リウマチにおいては、滑膜が異常増殖し、炎症や関節骨破壊を引き起こすサイトカインを産生することが知られている。そこで、抗Fas異常増殖した滑膜細胞のアポトーシスを誘導することが有効な治療手段と考えられる。

※4シノビオリン
株式会社ロコモジェンの科学最高顧問であり、聖マリアンナ医科大学の中島利博教授が、関節リウマチ患者の滑膜組織から発見した遺伝子。関節リウマチの原因となる滑膜細胞(Synovial cell)の異常増殖にちなんでシノビオリン(Synoviolin)と名づけられた。シノビオリンの量を減らす、もしくは、酵素活性を阻害することにより、関節リウマチの治療につながるとして、現在精力的な研究を進めている。